【仮面の騎士王】
「え? 怪我などしていないわ」


「でも、これ、血では?」


 マノンがケイトリンに明かりをかざして指さす。ケイトリンの外衣の前にも後ろにも、べっとりと赤いものが付着している。


(まさか)


 ケイトリンは倒れかけている男と自分の姿を交互に見つめた。


「あの、あなた。ひょっとして怪我をなさっているの?」


 声をかけると、男は顔を上げる。


「だったら、どうかしたのかな? 怪我をしていても、君を人質にしてここから逃げ出すくらい造作もない」


 表情は良く見えなかったが、それが、虚勢であることはだれの目にも明らかだった。


 ケイトリンは、震える手を伸ばし、磁石に引き寄せられるように男に触れようとする。マノンが驚いてそれを制止した。


「ケイト様! 危険でございますよ。今、だれか呼びますから」


 マノンの言葉に合わせたように、部屋の扉が乱暴に打ち鳴らされた。


「ケイトリン様! いらっしゃいますか?」


 それは、この屋敷を守っている兵士の声だった。


「起きています。どうかしたのですか?」


「はい。実は、この屋敷に賊が侵入したようなので、手分けをして捜索しているところなのです。ロッソ様がお嬢様を大変心配しております」


 ケイトリンは、男に視線を固定したまま、男がここにいると返事をすることを躊躇した。


 男は最後の力を振り絞り、剣を杖代わりに立ち上がろうしている。その膝が、強風にあおられた細い枝のように、男の体重を支えきれずがくんと折れた。


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