政宗かぶれの正志くん
当時を思い出し、私もそんな店を作る一員なのだから気合いを入れないと…と自分に喝を入れる。


丁度タイミングよくガラガラと音を立てたドアに向かい「いらっしゃーい!」と声をかける。


開ききったドア。


そこから覗く長身に、入れた気合いが一気に崩れ落ちた。


「めご。割烹着もよく似合っている」


そう微笑むのは、ついさっき見た美しい顔。


…わかってた。わかってたよ。


来るんじゃないかと思ったよ。


だって、この人たぶん、BとCの友人でこの辺に住んでるもん。


BとCが友人なら、私がここで働いているのは知っているはずだもん。


そんな面倒な予感が当たっては大変だから考えないようにしたのに、あっさり来やがったよ。



そんな私の感情は、


「現れた…」


うっかり小声で出てしまったらしく、


「待っていてくれたのだな。すまぬな、小十郎に捕まってしまった故、少し遅れた。許せよ」


いらない謝罪をもらってしまった。


…普通に待ってないから。


むしろ、小十郎とやらに捕まったまま正常思考に戻るまで監禁されていたらいい。


余計なことを言って、また訳のわからないコメントを貰っても困る。


こんなのでも、客だ。


そして私は、しがない一店員。


「コチラヘドーゾー…」


棒読みはご愛嬌ということで。


カウンター1番奥へお通しした。






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