政宗かぶれの正志くん
キョロキョロと店内を見回す彼を凝視する店長及び常連客。


不躾すぎるそれを、彼は全く気にしていないようで


「めご。いい店だな」


と微笑んでいる。


それを聞いた店長はあからさまににやけている。


どうやら彼を気に入ったらしい。


オーダーしたのは和定食(鯛めしに野菜炒め、お浸しに味噌汁)と鯛のカルパッチョ。


今日はいい鯛が入ったとご機嫌だった店長のイチオシメニューをピンポイントで当てたのも高得点だと思われる。


ただ、さすがにいくら単純思考の熊店長であっても、彼の醸し出す雰囲気や異彩を放つ容姿、そして先程の発言の影響かガツガツと話しかけはしない。


無遠慮な常連客たちもまた然り。


視線は彼を追うものの、声をかけない。


この人たちに「遠慮」や「躊躇」などというごく当たり前の感情があったことに驚きだ。


まぁ、ここにはいないけれど、オバチャンならいきなり核心をつくようなことを言うかもしれないけれど。


仕事中ということを考慮してなのか、彼も私に不必要に話しかけては来ない。


そこは好印象だ。


店長がサービスに少し多目に盛ったカルパッチョを箸で口元に運ぶ一連の所作も綺麗。


食堂だから箸で食えっ!と言う店長に、ならばイタリアンだのフレンチだのを提供するなっ!と思っていたけれど、これは眼福。


食べ物を綺麗に食べる人、大好きだ。

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