政宗かぶれの正志くん
「そういえば、結局アイツは誰なんだ?愛の知り合いか?」


彼が去った後、店長が首を傾げた。


残っていた常連客たちも「そういえば、愛ちゃんのことをめごって呼んでたな」「めごって、アダ名?何で?」と続く。


そう聞かれたって、私にもわからない。


「何か、今日桜の下で遭遇したんだけど…アレ、何ですかね?」


「いや、何ですかね?と言われても」


答えようがないのだから、仕方ない。


「何で眼帯してるの?」


「知りません。何でだと思います?」


「何でしゃべり方が大河ドラマ仕様なんだ?」


「さぁ…?好きなんですかねぇ?」


一緒に首をかしげるしか出来ない私に常連客たちがウズウズしているのがわかる。


「先手を打ちますと。彼氏だの、恋愛相手だのではありませんので、あしからず」


そう断言すると、彼らは揃って「えーっ」と不満げな顔をした。


そんなに私に彼氏がいないのがいけないのか。


「アバンチュールの予感」などという死語を吐く彼らを放って、トイレ掃除へ向かう。


それが終われば、お客様が全員帰った後にフロアの掃除をして業務終了だ。


その間に店長はレジを締めて、余った食材で私の賄い弁当を作ってくれる。


最初は店で食べてから帰っていたけれど、一刻も早く帰宅したい店長にお願いされて、毎回弁当箱を持参してそこに詰めてもらうようになった。


ちゃっかり朝ごはん用も持参している。
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