政宗かぶれの正志くん
「何で残念がるんですか…」


ジトッと睨むと全くそれに動じない店長は真顔で言った。


「スゲーいい男だったのに」


…熊が、真顔で美人を誉めている。


美人を。


「…言っておくが、俺は嫁一筋だし男は息子しか愛せないからな?」


…顔に出ていたらしい。


「変な人としか思えないんだけど…いい男…うーん…」


彼との遭遇から思い出すと、それが素直な感想。


ビジュアルや所作の美しさをかき消す変人さ。


いや、逆に美しすぎるが故に変人感が強調されるのか。


「眉間のシワに爪楊枝でも挟むか?」


いや、結構です。しないし、そんな面白くもない芸。


「俺は、アイツはいい男だと思うぞ?」


「何で?味を誉められたから?」


「そんなわけあるか。いや、それも嬉しいけど」


そう言った後、「うーん…何て言うかなー…」と眉を寄せた店長。


アイスティーを飲みながら次の言葉を待つ。


「眼だな。眼。俺の嫁さんと同じ眼をしてる」


元ヤン奥さんの眼を思い浮かべてみる。


「似てないですよ?」


「これだからケツの青い子どもは。形の話じゃねぇ。その力とか奥の話だ」


「わかんねぇだろうなぁ、ガキには」と勝ち誇った様に言われて癪に触るけれど、正直なところわからないから言い返せない。


「俺の勘は当たる。嫁さん、いい女だろうがよ!」


ガッハッハと笑う店長は結局奥さんにベタぼれだと言うことだけはわかった。


そう伝えると、「そのうちわかる」と背中を叩かれた。


痛い。




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