政宗かぶれの正志くん
裏口から外に出ると、店長が煙草を吸いながら待っていた。


「お待たせしました」と頭を下げる私に「待たされまーしーたー」と言いながら鍵をかける。


そして、「迎えだぞ」とニヤけると自宅方面へ歩いていった。


迎え。


単身上京した独り身の私にそんなアテはない。


が、よぎる心当たりが1人。


ゆっくり振り返ると、街灯の下で軽く手をあげる美人を発見。


まるでスポットライトを浴びているかのように浮かび上がっている。


怖っ!


「お疲れ」じゃねぇよ。


ストーカーかっ!


だが、美人!!


振り返ったまま立ちすくむ私にゆっくり歩み寄る様はまるでランウェイを歩くモデルの様。


「夜道の一人歩きは危ない。特にこの辺りは先日不審者が出た。故にめごを送り届けようと思ってな」


…不審者ってアンタじゃなかろうな。


そう悪態をつきたかったが、不覚にも少しときめいてしまった。


そんなか弱い女の子扱いされたのは、初めてだ。


実際の私は特に襲われるような容姿ではなく、このご時世で痴漢被害ゼロを誇っている。


「襲ったら倍返しされそう」な私をか弱い女の子どころか女扱いすらしてくれない男友達に囲まれて、田舎の野山を駆け回る青春時代を過ごした。


田舎の夜なんて都会とは比べようもない程暗くて鬱蒼としているけれど、送ってもらったことなんて皆無。


親すらも迎えに来てくれない。


それを、そんな私に「危ないから送る」って!!!


内心、ジーン…と感動していると「フフッ」と笑い声が聞こえた。


しまった!コイツが目の前にいることを忘れていた!
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