政宗かぶれの正志くん
「さぁ、行くぞ。疲れておろう。立ち仕事は大変だと聞く。早く帰って明日への英気を養わねばな」


ごく自然に私の鞄は彼の手に渡り、その鞄はいわば人質状態。


ついていくしかなくなってしまった。


こんな怪しさ100%の素性知らずについていってもいいのかと一瞬悩んだが、何となく、何となく大丈夫な気がした。


店長の言葉も後押しになったかもしれない。


彼の長い足がゆっくり歩を進める。


恐らく、私の歩く速度に無理がないよう気にしてくれているのだろう。


生憎私はスニーカー着用で、野山に鍛えられた足腰所持者だからバイト終わりとて全く疲れていないし歩みも速い方だけれど。


それも「女の子扱いされている」感が嬉しくて、黙ってついていった。


2分程歩いた所にある2階建てアパートの駐輪場で彼は足を止めた。


そこには駐輪場を申し訳程度に照らすオレンジのライトを受けて鈍く黒光りする大きなバイクが置いてあった。


…真っ黒だ。


バイクに詳しくない私の記憶によると、ボディの部分が黒くとも、車輪のところや骨組み的なところはシルバーだ。


でもこれは真っ黒。


どこもかしこも真っ黒。


そのせいでナンバープレートが妙に目立つ。


マジマジとそれを見続ける私が可笑しかったのか、美人はフフッと笑った。
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