政宗かぶれの正志くん
「良い物だろう?」


さぞ誇らしげな彼の綺麗な鼻が5㎝程高くなったように見えるけれど、さっぱり価値がわからない。


「はぁ」という気の抜けた相槌を感嘆の声と勘違いしたらしい美人はペラペラとそのバイクの魅力を語り始める。


が、申し訳ないことに1つも脳に入ってこない。


仕方なくそれに目を向けていると、街灯に照らされ光るその黒からゴキブリを連想してしまった。


言ったら殺られる…気がする…


だが、申し訳ないことに美人とゴキブリが戦っている様を想像をすると笑ってしまう。


ちまちまとホウ酸団子を置いているのだろうか。


叩く場合は新聞だろうか、スリッパだろうか。


「我が家に現れるとは身の程知らずめが」などと指を指すのだろうか。


もしくは「キャー」とでも叫んで逃げ惑うのだろうか。


ついニマニマと笑ってしまう私に彼は満足げに頷き力強く言い放った。


「よって、自ら色をつけたのだ」


「え?何が?」


聞いていなかった私は当然「よって」の前がわからない。


聞き返す私に嫌な顔1つせず、微笑んだまま彼は告げた。


「これだ。後藤黒は名馬なれど現代この地にて乗るにはいささか不便故。よって、色をつけたのだ、後藤黒に似せて」


その手が撫でるのは黒光りバイク。


後藤黒。


それは確か伊達政宗の愛馬の名前…だった気がする。


堪える間もなく吹き出してしまった。


いや、笑うだろうそれ。



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