政宗かぶれの正志くん
「驚いたであろう。再び巡り会えた奇跡に我も胸を震わせるばかりだ。だが今日は疲れたであろう?語らうのはまた後日としようぞ」


すっと差し出された赤に何やら模様が描かれた物。


頭にすっぽりと被されて、それがフルフェイスのヘルメットであると悟った。


呆然としたまま、バイクのリアシートに誘導され、流れるようにそれは走り出した。


初めて乗るが怖さはない。


流れる景色の速度から、それほどスピードが出されていないことがわかった。


私への気遣いなのだろうか。


数分後、バイクは見知ったアパートの前に停車した。


私のアパートだ。


流れるようなエスコートでバイクから降り、そっとヘルメットを脱がされ、乱れた髪を手櫛で直される。


鞄を差し出され、それを受け取ると彼はまた微笑み、


「明日は学校だけであろう?ゆっくり体を休めるのだぞ」と言い残し、去っていった。


取り残された私は、しばらくそこを動けなかった。


遠ざかっていくバイクと彼の背中。


バイクのエンジン音。


「ひひ~ん…じゃないのか」


つい口から漏れた一言に、自分の疲れと混乱が大変よく現れていると思う。


「…今日は、寝よう」


とにかく、寝よう。


そう思った私は、自分の部屋へと重い足を動かした。
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