政宗かぶれの正志くん
2)伊藤正志、見参!!
私の朝は、髪の毛との格闘から始まる。


パーマはかかりづらいくせに、寝癖だけはしっかりつきやがる。


水道代がかかって非常に痛いが、毎朝朝シャンしてブローする。


切れば楽なのだけれど、ドストレートのショートカットはドングリみたいになるし、ボブはコケシ、ミディアムは日本人形…と、不評と笑いを頂いてきた21年間。


結局、ロングで落ち着いているのだ。


胡座をかいてガシガシと髪を乾かしながら、昨晩のことを振り返ってみる。


一晩寝て、すっきりした頭で思ったこと。


「そんな訳あるか」


何故その場でそう思わなかったのか、悔やむ。


私は現実的な人間だと自己評価していたが、意外とファンタジックな精神も持ち合わせていたようだ。


100歩譲って、彼が伊達政宗の生まれ変わりだの転生だのが事実だったとする。


でも、どう考えても私は違うだろう。


お姫様ならお姫様らしく、社長令嬢か何かのお嬢様に生まれ変わるだろう。


生憎私は田舎の片隅で小さな商店を営む貧乏夫婦の一人娘だ。


誰がそんな身分に生まれ変わりたいものか。


そもそも、私は「生まれ変わり」という現象を信じていない。


だって、前世なんて覚えてないし。


覚えてるなんて言う人に会ったこともないし。


あ、昔ゲームセンターに置いてあったゲーム機『前世占い師、見世子』に『貴女の前世は中世の女剣士です』と診断されたことがあったっけ。


お姫様よりは剣士の方が私らしいと思う。


一晩明けて、とりあえずわかったこと。


やっぱり彼は美人だけれど変人で、伊達政宗の生まれ変わりでバイクが黒光り。


イコール、関わらないに限る!ということ。


よし!ここは逃げの一手、一択だ。


そう結論づけて家を出たものの、3歩で詰んだ。


そこには、朝日を受けて黒光りするバイクが鎮座していた。
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