政宗かぶれの正志くん
走り出したらもう、笑いを堪えることは出来なかった。


声を上げながら笑いつつ爆走する私を、すれ違ったお婆さんが怪訝な顔で見つめているけれど、それすら面白く感じた。


困ったことに、私に後藤黒の一生について教えてくれた高校の日本史の先生も思い出してしまい、また笑ってしまう。


大人しく根暗な人だと思っていた勤務1年目の彼女が大層な伊達政宗フリークだったと知ったあの日、彼女は骨折した。


戦国時代の授業中、突然スイッチが入ったのか多弁になり、声が大きくなった。


伊達政宗の悲劇と武勇伝、後藤黒の忠心をとんでもない熱量で語り始め、「ついにっっっ!後藤黒は身を投げたのですっっっ!!!」と教壇から変な体制で飛び降り、足首が変な方向に曲がった状態で転倒した。


目の前で何が起こったのかついていけない生徒たちに、痛み踞る教師。


我に帰った日直の生徒が保健室へ駆け込み、先生は病院へ運ばれていった。


残された私たちは誰かが吹き出したのをきっかけに大爆笑。


しばらくそれは収まらず、次の日担任から彼女の入院を知らされてもう1度爆笑した。


戻ってきた彼女につけられたアダ名は「黒ちゃん」だった。


黒ちゃん、アナタの知識が役に立ったよ!


今もどこかで熱く語っているのかな?


部屋で1人でしばらくヒーヒー笑っていたけれど、ようやく収まり一息つくと、急激に冷静になってしまった。


こんな時、余計に何が面白かったのかわからなくなるという虚しい経験は皆にはないだろうか。


私は今、味わっている。
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