政宗かぶれの正志くん
バイト後、外に出れば当然のように街灯下にモデル立ちしている伊藤正志。


もうすっかり見慣れたそれに、呆れることも突っ込むこともない。


ただ、雨の度に運転手として付き合わされる成実…高田さんには申し訳なさが募る。


何度も拒否したのに、伊藤正志はともかく高田さんまでも送り係を強く望んだため、私が妥協した。


高田さんとしては、伊藤正志の暴走を止められなかった罪滅ぼしのつもりらしい。


以前、たまたま二人きりになった時に、何故迷惑しかかけられず、挙げ句に本名で呼んでくれないような変人と付き合い続けているのかを聞いたら、「好きだから」と言っていた。


シンプル。


前の彼女に「私と友達(=伊藤正志)どっちが大事なの!」と怒られ、食い気味に「正志」と答えてビンタをもらったらしい。


小さい頃からずっと一緒だからこその、何かとてつもなくすばらしい魅力があるようだ。


ちなみに、片山さんに同じように聞いてみたら「放っておけない」と言っていた。


それはすぐに納得出来た。


「雨なのに、すまんね」


と軽く謝る私と、


「雨だから、我がおるのだ」


と胸を張る伊藤正志。


「雨の日には役立たないくせに。馬野郎めが」


と悪態をつく私と、


「あれは忘れるがいい。今新たに制作中だからな」


と胸を張る伊藤正志。


少し離れたところにある駐車スペースで待機してくれていた高田さんに缶コーヒーを渡しながら詫びる私と、


「気にするな。当然のことだ」


と、胸を張る伊藤正志。


それを微笑ましく見守る高田さん。


それを見て満足げな伊藤正志。


いつもの流れに呆れながらも心地よさを感じる私。


…大問題だ。








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