政宗かぶれの正志くん
「へー。政宗のにいちゃんが着々と行動を開始したってとこか」


「愛ちゃんを姫として、その居城としたら、今伊達軍に攻められ始めたってところだ」


「なんだっけ、あれだ、あれ。『出陣っっ!!』てやつだ。法螺貝吹いてさ」


ぽあぽ~と下手くそな音真似混じりの笑い声が忌々しいったらありゃしない。


ゲラゲラ笑いながらビールが進んでいる常連客たちをジトッと睨むも、「不細工な顔だ」とさらに笑われた。


「いやー、愛ちゃんは居酒屋の鏡だね。料理以外にも旨い肴を提供してくれてさ」


人の悩みを肴扱いか!


そもそも、ここは居酒屋ではない!


そこの熊、一緒に笑ってないで訂正しろよ!


相談相手、間違えた!


こんなことなら口の軽い女友達にしておけばよかった!


ぽわんと頭を過るポヨポヨした笑顔の彼女。


…駄目だわ。やっぱり彼女はないわ。


徐々に伊藤正志が浸透していっている気持ち悪さを誰かに分かってほしいのに。


関わりたくないと思っていた変人がスムーズに懐に入ってきた経験がある人はいないのだろうか。


伊藤正志本体が気持ち悪いのではない。


伊藤正志を自然に受け入れている自分が怖いのだ。


こんな経験、なかったのだから。


普通にないだろう。前世を思い込みで信じている人に、思い違いで言い寄られるなど。


毎日何らかの接触を受け、嫌な気持ちにならなくなった…など。


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