政宗かぶれの正志くん
ゲラゲラ、ワイワイ楽しそうな不届き者どものお冷にタバスコをミックスするサービスをして回りながら、笑って言い返しながら。

私の頭には忌々しい過去が過っていた。

「恋は頭じゃなくて、胸でする」

もしもこの言葉をあの時にかけてもらえていたら・・・

「恋をするって素敵なことだよ?」

もしもあの時そう言って背中を押してくれる人がいたら・・・

心が暖かくなったら、氷でガチガチに固めて零れ出さない様に封印していた記憶が溶け出してきてしまったのかもしれない。

「ちょっと!!え?!待って!ごめん!そんな傷つくなんて思わなくて!!」

そんな焦った様子の綱木さんの言葉にふと我に返ると、頬が冷たいことに気が付いた。

「え・・・?」

触れてみると、それは涙だった。

無意識のうちに流れたそれは、久しく流していなかった物で、止め方を忘れてしまったのか、なかなかひっこまない。

「あれ?どうして?」

そんな自分の涙腺に驚き困惑するも、それ以上に困惑し、パニックになりかけているのは常連客と熊店長だった。

それはそうだろう。

この私が、伊藤とくっつくかくっつかないかで賭けをしていると暴露されたぐらいで泣くわけがないのだから。
< 53 / 55 >

この作品をシェア

pagetop