政宗かぶれの正志くん
1)伊達政宗、見参!?
バイトは定番のウェイトレスだ。


いや、そんなオシャレなものではなかった。


気のいいオジサンが中華鍋を振る小さな食堂の店員だ、が正しい。


週に3回から4回、平日は夕方5時から夜8時、土日祝日なら昼前から夜8時までがだいたいの私のシフト。


私が入っていない時はパートのおばちゃんか店長の奥さんが入っている。


店長であり料理人であるオジサンは5年前両親からこの店を受け継いだらしく、それまでは都内の某ホテルでシェフをしていた。


年齢は42歳だけれど濃い髭と薄い髪と身長180センチ体重90キロのせいで年齢不詳。


加えて、糸目のつり目で人相が悪い。


パット見、熊。


パートのおばちゃんは先代からここで働いていたベテランで御年68歳。


年の割に老けてみえるのはガリガリに痩せたシワだらけの手と顔のせいかと思われる。


不健康そうな見た目と裏腹にすこぶる元気で「ババァ!そろそろ引退か!!」「お前のオシメがはずれるまでは引退など出来るか!!」と店長と言い合っているのをよく見る。


お互い笑っているので、挨拶みたいなものだと理解している。


奥さんは元ヤンキー?何とかっていう有名な暴走族の副総長だか支部長だかで、36歳でありながら金髪で鋭い目付きは健在だ。


私と会うと「おう!愛!飯食ってるか!!」と背中を叩くのが癖で、毎回痛い。


そこに私を加えた従業員4人の小さな食堂の食堂。


こんな面子なのに食堂の名前が『ほのぼの食堂』だなんて、悪ふざけとしか思えない。



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