政宗かぶれの正志くん
おっかなびっくり頼んだ『和定食(600円)』は、とんでもなく美味しかった。


鱈の西京焼きとほうれん草の白和え、ひじきの煮物に白米と味噌汁。


特に飾り付けられることなく、実家の母親が作った風なそれらは、どれもこれも美味しかった。


母親、完敗。


「うっま!!」


思わず出てしまった私の感想にニンマリと笑う笑顔は意外と優しく、それにも驚いた。


「嬢ちゃん、地方の子だろ。どこから来た?」


と水を足しながら聞くおばちゃんに、「三重です」と答えると、「天照大神のお膝元か!!」と微笑まれた。


ああ、伊勢神宮のことか。


三重をそのように表現されたのは初めてだった。


おばちゃんが天照大神について演説している間に、私の味噌汁はすっかり冷めてしまった。


どうも話を聞きながら食事を取るのは苦手。


合間をみて、そっと味噌汁椀を口に運ぶ。


…冷めても美味しいとか、マジか。


目を見開いたらしい私を見た熊の顔はドヤ顔で、妙な可愛らしさを見出だしてしまった。


「天照大神に免じて、おばちゃんが奢ってやる」というよく分からない理由で出されたティラミスも絶品で、目の前の熊が最早何者なのかわからなくなったところでガラガラガラと引き戸が開いた。


ドヤドヤと入ってきたのは常連らしいお客さんで、気がつけば満席となっていた。


帰り際に「またおいで。明日もがんばれ」と言われたのが印象的だった。





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