朧咲夜Another【短編・完】
「スリ。あとはよろしく頼みます」
「え? あ――」
「あっ、あたしのです! それっ」
流夜の起こした騒動で、やっと財布をすられた女性が気付いたようだ。
警備員が、流夜が捕まえた男と、被害者の女性を連れて行く。
残った一人の警備員が、流夜に尋ねて来た。
「どうして気づいたんですか?」
「見えただけです。すみません。連れが出てくるので、もういいですか?」
「あ、はい。ありがとうございました」
頭を下げる警備員に、流夜も軽く会釈して待つ場所を変える。
流夜の真っ直ぐ正面に、やたら人目を引いている子どもがいた。
「相っ変わらず感情ねーな、流夜兄さん」
「お前はクソガキだな、斎月」
流夜が待っていた弟は――黒い髪を高い位置で結い、鋭い眼差し、人形めいた精微な容姿の、女子用の学生服を来た子ども、だった。
大和斎月(やまと いつき)という、十歳の少女だ。
「パッと見は変わったか?」