朧咲夜Another【短編・完】
この状況になっても落ち着いた声の男の子。
咲桜はやっとその人をちゃんと見ることが出来た。
背の高い、感情の見えない表情の男の子。
正統派の美形? そんな形容が出来そうだ。
黒い瞳は光も呑み込んでしまいそうなほど深い。
ジーンズにシャツという簡単な格好でも――正直、一言でカッコいい。
「おい? どっか怪我させられたか?」
咲桜が反応しないでいると、彼が近寄って来た。
「あ、ありがとうごいざいます……なんとお礼を言ったら……」
咲桜の後ろで硬直していたおばあさんが、彼を拝むように頭を下げた。
はっ、そうだ、今助けてもらったのだ。
「礼を言うべきはこの子です。何かある前に間に合ってよかった」