先輩、一億円で私と付き合って下さい!
気合を入れて、待ち合わせの料亭へと向かった。
夕方になったばかりの宵の口。
指定先の最寄りの駅から歩いて5分ほどのところにそれはあった。
高級感を漂わせるように、店先が日本庭園風になっている。
といっても軒先だけのお飾り程度に過ぎなかったが、それでも暖簾をくぐって格子戸を開けるのには勇気がいった。
店の中に入れば、すぐさま案内係が腰を低くして対応し、丁寧に俺を案内してくれた。
奥に入るにつれ、喧騒から遠ざかる静かな落ち着きが、上品に思えていく。
縁側のような高い敷居。
案内人が奥の場所で立ち止まった。
その足元で、黒い革靴のつま先部分が、こっちを向いて段の下に潜り込んでいるのがちらりと見えた。
案内人が履きものを脱いで静かにその縁に上がり、正座をしてかしこまった。
「失礼します」
掛け声と共に、襖がすーっと開けば、人影が現れた。
「お連れ様をご案内いたしました」
「フムっ」
喉を鳴らしたような音が微かに聞こえた。
なぜか『お代官様』を連想する。
そしたら俺は『越後谷』になってしまうのだろうか。
靴を脱ぎ、その部屋に上り込む。
掘りごたつのようになった4人掛けのテーブルがある、小さな部屋だった。
「まずお飲み物はいかがいたしましょう」
まだ声を出せるような状態でなく、俺はいらないと手をヒラヒラさせれば、適当にそこに居たもの同士でやり取りをしていた。
案内人はすぐさま下がる。
後ろですーっと襖が閉まると同時に閉塞感が現れ、俺は逃げられないと覚悟した。
その部屋に居た人物は立ち上がり、愛想よく俺を迎え入れた。
それが自分の父であるとわかっていても、実感が湧かず、ただのおじさんに見えた。
「よく来てくれた、嶺」
前から俺を知っていたと言いたげに、父親らしく俺を呼び捨てにした。
背は俺の方が高かったが、横幅は父の方があり、太っているというより、がしっとした貫録があった。
顔はこの時点ではよくわからない。
俺はまだまともに見ていないからだ。
夕方になったばかりの宵の口。
指定先の最寄りの駅から歩いて5分ほどのところにそれはあった。
高級感を漂わせるように、店先が日本庭園風になっている。
といっても軒先だけのお飾り程度に過ぎなかったが、それでも暖簾をくぐって格子戸を開けるのには勇気がいった。
店の中に入れば、すぐさま案内係が腰を低くして対応し、丁寧に俺を案内してくれた。
奥に入るにつれ、喧騒から遠ざかる静かな落ち着きが、上品に思えていく。
縁側のような高い敷居。
案内人が奥の場所で立ち止まった。
その足元で、黒い革靴のつま先部分が、こっちを向いて段の下に潜り込んでいるのがちらりと見えた。
案内人が履きものを脱いで静かにその縁に上がり、正座をしてかしこまった。
「失礼します」
掛け声と共に、襖がすーっと開けば、人影が現れた。
「お連れ様をご案内いたしました」
「フムっ」
喉を鳴らしたような音が微かに聞こえた。
なぜか『お代官様』を連想する。
そしたら俺は『越後谷』になってしまうのだろうか。
靴を脱ぎ、その部屋に上り込む。
掘りごたつのようになった4人掛けのテーブルがある、小さな部屋だった。
「まずお飲み物はいかがいたしましょう」
まだ声を出せるような状態でなく、俺はいらないと手をヒラヒラさせれば、適当にそこに居たもの同士でやり取りをしていた。
案内人はすぐさま下がる。
後ろですーっと襖が閉まると同時に閉塞感が現れ、俺は逃げられないと覚悟した。
その部屋に居た人物は立ち上がり、愛想よく俺を迎え入れた。
それが自分の父であるとわかっていても、実感が湧かず、ただのおじさんに見えた。
「よく来てくれた、嶺」
前から俺を知っていたと言いたげに、父親らしく俺を呼び捨てにした。
背は俺の方が高かったが、横幅は父の方があり、太っているというより、がしっとした貫録があった。
顔はこの時点ではよくわからない。
俺はまだまともに見ていないからだ。