先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 最後の最後で邪魔をされ、俺はノゾミに告白する気分を削がれて、気持ちの整理が上手くつかない。
 暫く黙りながら昇降口まで来てしまった。

 周りは騒がしく、生徒が出入りしている。
 ノゾミと落ち着いて話せるような場所じゃなかった。
 靴を履きかえ、外に出れば、不快な暑さが体にまとわりつく。

「暑いな」
「夏ですからね」

 空を仰くノゾミ。
 眩しく目を細めるその目じりから、涙が流れていた。
 光が差し込んで刺激されたのだろうか。

「この夏、どうするんだ。そういえば今月末の31日、お前の誕生日だろ」
「えっ!?」

「何が欲しい? リクエスト聞いても、叶えられるかわからないけど、でも一応教えてくれ」
「先輩…… ありがとうございます。お気持ちだけで充分です」

「でもなんかあるだろ」
「だったら、私の願い叶えて下さい」

「なんだ?」
「先輩、必ず医者になって下さい」

「それは、お前の欲しいものじゃないだろ。それに医者って言われても、かなり難しいからな」
「先輩なら大丈夫。きっと──。先輩はすでに奇跡を起こしてるから」

「奇跡?」

 ノゾミは精一杯に笑う。

 校門を出ると、俺たちは左右に分かれて歩き出す。
 上手く告白できなかったが、ノゾミの誕生日にもう一度試みてみようと俺は力強く決心した。

 そして、何をプレゼントにすればいいか、考えているとき、ふとアイデアが浮かんだ。
 ゲームセンターの景品であったケーキのぬいぐるみ。
 そう思いゲームセンターに赴いて、俺は執念でそれを獲りにかかった。

 色々と苦労はあったけど、結果的に獲れたのはラッキーだった。
 これで俺はノゾミの誕生日に告白する準備が整った。
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