先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 レスポワールのお店はその日とても暗く見えた。
 店内の電気が消えている。

 出入り口のドアの取っ手の部分には『fermé』といる看板が掛けられている。
 これは英語で言う『closed』のことだろうか。
 定休日なのかもしれない。

 今度は玄関先に回り込み、そこで呼び鈴を押した。
 ほんわかする笑顔で、志摩子がでてくる姿を思い浮かべていたが、一向に応答がない。

 もう一度呼び鈴を押しても、やっぱり誰も出てくる気配がなかった。
 留守? もしかして家族で旅行に行ったのではなかろうか。
 誰もいなければしょうがないので、俺は残念な気持ちで帰った。

 そして次の日、しつこくノゾミの教室に行けば、今日も休みと知らされた。
 やはり家に寄れば、この日もレスポワールは昨日と同じままに閉まっていた。

 来週は終業式を控えて、その後は夏休みが始まるから、早めに休みを取って、本当に旅行にでかけたみたいだった。

 俺が来た道を戻ろうとした時、後ろから車の気配を感じ、振り向けば、一台の車が店の駐車場に入って行った。
 もしかしたらと思って、引き返せば、車の中から出てきたのはユメだった。

 俺は久しぶりに会えることが嬉しくて大声で名前を呼んだら、ユメは真っ赤な目で俺に振り返った。

「天見君……」
「ユメさん、どうしたんですか。何かあったんですか」

 俺を見るなり、涙腺が緩んで泣き出した。

「ノゾミがノゾミが」
「ノゾミがどうしたんですか」

 ユメは耐えきれずに、俺に抱き着いて来た。

「……ノゾミが…… 死んでしまったの」
「えっ!? 死んだ? 嘘」

 唐突なその言葉に俺の頭の中は真っ白になった。
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