先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 俺は今、自分の家に戻りテーブルについている。
 ユメは、今から家族の時間になるからそっとしておいてほしいと、俺をその場からやんわりと追い出した。

 ユメも気が動転しており、これからノゾミを家に迎えるための準備があるために、一足早く病院から戻ってきたところだった。

 今日は仮通夜になり、明日の夕方以降から通夜になるからと、その時に来てほしいと言った。
 ユメも詳しく説明できず、ただ死因だけを教えてくれた。

 ノゾミが死んでしまった原因──急性白血病。
 前日に急に意識がなくなり病院に運ばれ、あっという間に危篤状態となりそのまま帰らぬ人となってしまったとユメは言った。

 それを言うのが精一杯で、あとは察してほしいと、家の中へと入って行った。

 ここにいれば迷惑になると思い、重い足を引きずるように帰ってきたが、俺はこれが現実だと受け入れられない。

 何かの冗談のように、「嘘でした」とユメもノゾミも面白半分に舌を出して仲良く笑ってる姿が目に浮かぶ。

 信じたくない。
 ノゾミは死んでなんかいない。

 その時色々と頭に浮かんだ。
 ノゾミが常に鼻血を出していた事、手足の青痣を見かけた事、疲れた表情をしていた事、体調が悪くふらつきがあった事。

 それらは白血病の兆候としてよく現れる。
 なんでもっと早く気が付かなかったんだろう。

 急性白血病は放って置くと確実に死に至る。
 稀に気づかずにいることもあり、そんな時、突然体調が崩れてあっという間に命を落としてしまうこともある。

 ノゾミはまさにそうなってしまった。

 兆候は一杯出ていたのに、俺だってそれくらいの知識はあったのに、なんで気づいてやれなかったんだろう。
 俺はまだこれが悪い冗談にしか思えず、頑なに信じたくなかった。
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