先輩、一億円で私と付き合って下さい!

 一夜明けたこの日、もやもやした俺の気持ちに反して、皮肉にもすっきりとした青空が広がる気持ちのいい天気となった。

 俺はそんな天気を見つめながら、足取り重く学校に向かう。

 会った事がない父親から提供してきた大学費用に心が揺れていたが、プライドや複雑な感情で俺は素直にそれを認められない。

 母は俺のためになるのなら、昔の事は水に流して、広崎家の跡を継ぐのもありだという。

 それもまた考えようによっては、乗っ取って復讐するという事にもなるからと付け足して、寂しげに笑っていた。

 折角忘れていた広崎家と再び係わりを持つことで、過去の古傷が疼いて辛いだろうに、母は俺に医者になって欲しいために、無理しているように思えた。

 煮え切らない思いを抱き、欠伸をしながら、前屈みで教室に入れば、江藤が走り寄って元気に出迎えてくれた。

 能天気にあいさつされると、イラつく。
 適当に声を出すだけでかわし、かったるく自分の席にどさっと座り込んだ。

「天見は相変わらず、仏頂面だよな。なんかあったのか」
「色々とな」

「外を見ろよ。世界はこんなにも素晴らしいんだぜ。あの青空、清々しいじゃないか。ほら、お前もあの空に向かいたいと思わないか」

 窓に向かって、大げさに指を差し、芝居じみたわざとらしさが、余計に鼻に突く。

「お前はパイロット目指してるから、そういうのに憧れるんだろ。俺は違うから」
「なあ、おれ、お前にいつパイロットになりたいって言った? ずっと秘密にしてたんだぜ」

「昨日、下校前に進路の話になって、俺に言ってきたじゃないか」
「ちょっと待て、昨日、俺はお前の進路の話が気になっただけで自分のは言ってないぞ」

「それじゃ、一昨日の放課後だ」
「一昨日? 日曜日だぜ」

「えっ?」

 なんだろうこの違和感。

 そういえば今日は火曜日だった。
 昨日は月曜日。

 それじゃ俺はいつ江藤からパイロットになりたいと聞いたのだろう。

 あれは俺が放課後、先生に進路の事で初めて呼び止められた後の事だったと思ったのだが、昨日は二回目に呼び止められたから、その前だと思って一昨日と思ったけど……

 あれ、どっちも月曜日の出来事だったような気がする。
 それじゃ先週の月曜日だったのだろうか。

 それだとおかしい。
 その時はまだ進路希望のプリントは先生に提出してなかったはずだ。

 その日は配られたばかりだった。

 あれ?
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