先輩、一億円で私と付き合って下さい!
「おい、大丈夫か? まあ、俺も知らないで口走ってたのかもな。それより、天見が進学しない事の方が重大だ。医者になりたいって仄めかしてなかったか? なんで進学しないんだよ」

「人にはそれぞれ事情があるだろうが。放っておいてくれ」

「放っておけるかっていうんだ。俺は天見の事を常に把握しなければならない義務っていうのがあるの」

「そうやって俺の情報を女子達に流して、見返りを得てるんだろ。俺をダシに商売するなよ」

「いいじゃないか別に。天見の事を知りたいという女子は一杯いるんだ。早速なんだが、昨日の放課後、一年女子と一緒に帰ったらしいな。すでに噂になってるぞ。一体どういうことか説明してもらおうか」

「別に大したことないよ。付き合ってって言われたから、承諾しただけだ」

「えっ! 付き合ってる!? それ本当か」

「ああ、面白そうだから、付き合うことにした」

「嘘だろ。今まで特定の彼女なんて作った事ないお前が、そんなにあっさりと受け入れるなんて。そんなにいい女だったのか?」

「いや、普通だ」

「普通? 一体どんな女なんだ。俺にも会わせろよ」
「そのうちにな」

 江藤はその後、大スクープと称して、俺の話を周りに吹き込んでいった。

 大げさに騒ぐものだから、俺に憧れていた女生徒は泣き出したり、さほど仲がいいとはいえない男たちも冷やかしにきたりと、俺の周りは賑やかだった。

 江藤はノゾミの何が気に入ったのか探ろうとしてくるが、まさか一億円を貰う約束をしたからとは言えない。

 お金でなびいたといっても、その金額自体がありえないから、誰も信じないだろう。

 俺ですら、本当にもらえるとは思っていない。
 成り行きを見てみたくて、興味がでただけだ。

 惚れたという事ではなかった。
 気まぐれで付き合う事にしたが、果たしてそれで本当によかったのだろうか。
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