先輩、一億円で私と付き合って下さい!
「なんだよ。なにかあるのかよ」

「いや、その、まだこの先どうなるかわからないってことだ。アイツだって、俺の本当の姿を見たら幻滅することだってあるだろうし、長続きするかどうかも……」

「なんだか、嫌われてもいいみたいだな。自信家の天見にしては変だし、すぐに別れるような言いぐさだな。もしかして、何か言えない理由でもあるのか?」

「理由、理由って、別にいいじゃないか。とにかく俺はアイツに興味を持ったんだよ」
 それは本当のことだった。

「ふーん」

 訝しげな表情で江藤は俺を見ていた。

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったことで、終止符を遂げたが、俺はなんだか複雑な気持ちにさせられた。

 一瞬でも一億円という魅力を感じたのは事実だったし、あの背水の陣のような切羽詰まった告白に押されたのもあった。

 ノゾミが俺に係わってから、いつもの日常がどこか違う世界へとずれていっているような気分にもさせられる。

 それが彼女が全てをもたらしたように、俺は彼女に新しい何かを見せられているのかもしれない。

 恥ずかしがりやで、引っ込み思案なか弱い女の子なのに、俺には無理して勇気を振り絞っている。

 そこに、奇抜で奇妙な行動。

 前日もあのか弱さからは考えにくいほどに、俺はエレベーターに押し込まれた。
 あれもなんだったのか。

 不思議な要素は俺を惹き付ける。
 よく考えれば、まだ名前以外何も彼女の事を知らなかった。

 少なくとも、彼女に興味を持ったという点では、今まで寄ってきた女の子達とは全く違い、俺は彼女の事を知りたくなってきた。

 俺は放課後、自ら彼女に会いに行こうと、窓の外を眺める。

 青空にまっ白い雲が綿を引き伸ばしたようにふわっと広がっていた。

 その時、ふと連想してマスクを思い出しハッとするも、先生が教室に入って来たことですぐにかき消されてしまった。

 俺は何かを見落としているのかもしれない。
 突然そんな気持ちになりながら、授業が始まるとその気持ちもまた次第に薄れて行った。
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