先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 それ故に、滅多に人が寄り付かない場所だった、こんな風に、人目を避けて何かをする以外には。

 俺もそんなことにここが使われていると気が付いたのも、たまたま廊下の端の階段を下へ降りようとしたら、上の方から声が聞こえてきたので、もしやと思ってやってきた結果だった。

 偶然だったとはいえ、見つけた事に胸が高鳴った。

「おい、お前ら一体ここで何してるんだ」

 突然の俺の登場に、取り囲んでいた女子生徒は判りやすいほどに驚いて顔を青ざめていた。

 ノゾミも目をパチクリとして、俺の登場にびっくりしていた。

 虐めていた誰もが口を閉ざし、気まずい思いを抱えて怯えている様子は、自分がものすごくかっこいい登場をしている錯覚にも陥ってしまう。

 これは判りやすいほどに、正義の味方が現れるグッドタイミング。
 ついそれになりきって、俺はノゾミの傍へ寄り、彼女の前に立ちはだかった。

「こいつに指一本触れるのは許さねぇからな。また、こいつを虐める事があったら、俺は出るところ出てお前らを訴えてやる。わかったら、さっさと帰れ」

 ギロリと一人一人に憎しみをぶつけ、俺はありったけに睥睨してやった。
 俺に怯んだ女子生徒たちは、それに怯えすぐさま去って行った。

 その中には、以前俺に告白してきた女もいたから、俺が虐めの事実を知ったことで、かなりビビッて戦慄していた様子だった。

 だが、俺もまた暗黒側に陥るのも理解できるだけに、人間の複雑な感情を一方的に責める側の人間でもないように思えた。

 それでも、ノゾミを助けなければという思いは、不思議と自分の中で芽生えていた。
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