先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 さっきまで顔を赤くして恥ずかしがっていたノゾミは、そこで覚悟を決めたような真剣な表情を俺に向けた。

 その目にはキリッとした聡明さがあった。

 急に凛として大人びて、俺の方がまた怯んでしまう。

 ノゾミがひたむきな思いを抱え込んだとき、それは必死の覚悟が現れる。

 心構えがひたすら凄まじいというのか、まるで使命を帯びた責任感がヒシヒシと伝わってくるようだった。

「天見先輩!」
「おい、急に畏まって、な、なんだよ」

「一億円の事もまだ疑ってるんですよね。だったら、私が今何を言ったところできっと信じて貰えないと思います」

「一億円は今は別にいいんだよ」

「よくないです。それも含めて信じる事ができないと、意味がないんです」
「だからどんな意味だよ」

「私が覚悟を決めて先輩に告白したことから全てが始まります。そこに意味があるんです」

「だから、それが、何なんだよ」

「一億円を手にした時、きっと気づいてもらえると思います。その時が来なければ、私の話には信憑性がないんです」

「それじゃ俺が一億円もらえると信じたとしよう。それならいいのか?」

「いいえ、よくありません。その仮定の言葉が出てくる事が信じてない証拠です」

「なんか回りくどいな。じゃあ、信じる。俺は一億円もらえる!」

 なんだか俺もやけくそになってしまった。

 暫くお互い真剣に見つめ合っていたが、そこにはラブロマンスなど発生せず、どちらも力んで突っ張って、相手の出方を見ては神経をすり減らしていた。

 ノゾミの瞳が揺れ動き、本当の事を言おうか逡巡しているように見えた。
 そしてぐっと体に力を込めて口を開いた。
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