先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 それだ。
 俺はその時、やっとノゾミの不思議さの意味が筋道を帯びた。

 ノゾミは俺に肝心な事を何一つ説明しないで、自分の中だけで行動している。
 ノゾミにしかわからないから、勝手に行動されて俺は困惑しているだけだ。

 その理由がわかれば、この不可解な行動が解明する。
 しかし、ノゾミはそれを言おうとしない。

 なぜだ?

 その時、突然フラッシュバックするように、ある映像がぱっと浮かんだ。
 昨日ちらっと見た、マスクをした男。

 妙に俺の記憶を突いた。
 俺は違和感を覚え、その感情がどこからやってくるのか、今一瞬、何かを思い出したような気になった。

「先輩、どうしたんですか」
 突然ぼんやりした俺の表情がおかしいと思ったのか、ノゾミが俺の顔を覗き込んだ。

「えっ、いや、今、何かを思い出しかけて……」
 それがとても重要な事で、そこにノゾミとの関連があるんじゃないだろうか。

 くそっ、ダメだ。
 引っこ抜かれたように、その部分があっという間に消えていった。

 一体なんなんだ。
 俺は無意識に頭を抑え込んでいた。

「大丈夫ですか?」
「えっ、ああ、大丈夫だ。なんだか今、お前の一番の理由がわかりかけた気になったんだ。でもそれがすっと抜けて行った」

「えっ?」
「とにかく、お前は何かを俺に隠しているってことだな。それに俺が気が付くとヤバイ。そうじゃないのか?」

「それは……」

「わかった。今は俺も訊かないでおこう。だが、約束の期限、つまりお前が提示する今から三ヶ月後だ。その時、俺に何もかも話してくれないか。この顛末の全てを。終われば話せるんじゃないのか?」

 ノゾミは俺の言葉を体全体で受け止め踏ん張っていた。
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