先輩、一億円で私と付き合って下さい!
「甘党のアマミ君だよね」
「いえ、別に甘党っていうわけじゃないですけど、天を見ると書いて『天見』というだけです」

「まあ、それはどうでもいいわ。あなた本当にノゾミのボーイフレンドなの?」
「えっ、あ、はい。一応」

 ノゾミの姉はじろじろと俺を観察して、俺は居心地悪かった。
 思った事をずけずけというところは、積極さを通り過ぎてきつそうな性格に思えた。

「そっか、ノゾミの片思いが本当に実ったのか。すごいな。ノゾミ、あなたに初めて会った時、一目惚れしたって言ってた。それで偶然同じ高校だったと知った時も喜んでたけど、まさか恋が成就するとはすごい。レスポワールのケーキのご利益かな」

「えっ? 偶然同じ高校だと知った? ケーキのご利益?」
 俺が訊き返した時、ノゾミの姉のハンドバックから電子音が聞こえてきた。

 慌てて鞄を開けて、スマホを取り出し、確認している。
 メールだったのか、それを見るなり顔がぱっと明るくなっていた。

「あ、ごめん。彼氏からのメールだったんだ」
 あまりにも嬉しそうにしている態度に俺は違和感を覚え、ついそれを口に出してしまった。

「あれ、喧嘩別れしたんじゃなかったんですか?」
「えっ、あら、やだ、あの時ノゾミとの会話を聞いてたのね。なんか恥ずかしいわ」

 誤魔化すために照れた笑いをした後、また続けた。

「あれね、喧嘩してかっとなって、つい別れるって口走ったんだけどさ、彼の方から悪かったって謝ってきたの。よく考えたら私も悪かったかなって思って」
「でも、その彼氏は既婚者なんですよね」

「えっ!? 既婚者? それ、どういう事?」
 素っ頓狂に姉が驚くから、俺はノゾミから聞き間違えたのかと思い、自信がなくなっていく。
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