先輩、一億円で私と付き合って下さい!

「お待たせしました。ハンバーグステーキです。鉄板が熱くなってます。お気をつけ下さい」
「うわ、うまそう」

 素直に喜んでいる俺の向かい側で、ノゾミの姉、ユメがコーヒーカップを手にして俺を見ていた。

「本当にそんなのでよかったの? フレンチのコース料理や日本料亭でもよかったのに」
「俺、これ好きなんです。それじゃ遠慮なく頂きます」

 俺が食べる姿をユメは微笑んでみていた。
 この時、俺はユメとファミレスの席についていた。

 一仕事終わった後の、ユメからのお礼だった。
 結論から言うと、ユメと下北は完全に別れられた。

 それもあっさりと、ユメの方からばっさりと斬ったのだった。
 あの時、下北の態度ですでに察していたが、とどめを刺すように俺がスマホで録音した声を再生すると、ユメはスーパーサイア人ごとく燃え上がった。

 プライドの高いユメは般若の顔つきで睨みつけ、そして「サイテー」と悪態ついて、グーパンした。

 周りを歩いてた人達はびっくりし、沢山の視線が集まったが、男女の痴話げんかと察すると見てみぬふりを装いながら、面白そうにしていた。

 下北は弁解の余地なく、されるがままに大人しく、素直に謝罪する。
 それは男の俺が見ていてもかっこ悪く、いい気味だと溜飲が下がる思いだった。

「あんたね、こんなこと二度とするんじゃないよ。これから子供が生まれて父親になるんでしょ。もっとしっかりしなさい。子供を絶対に不幸にしちゃだめ」

「それじゃ妻には黙っててくれるのか」
 この男は何もわかってないと思った。

 俺が言わずとも、下北はもう一度グーパンを味わされていてた。

「自分の事ばっかり心配してんじゃないわよ。別に許したわけじゃない。見抜けなかった私が情けなかっただけ。これ以上私のような犠牲者を作るなって事よ。バーカ」

 その後は踵を返して歩いて行った。
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