先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 またノゾミを迎えに教室へ向かうつもりでいたが、俺が教室を出ようとした時には、ノゾミは出入り口のドアの付近でおどおどとして立っていた。
 照れくささを感じながら俺は近づいた。

「あの、今日は何も持ってきてないんですけど」
「お菓子はもういいって言ったし、気にすることないじゃないか。でもまた俺が作って欲しいと思った時はリクエストしていいか?」

「えっ、あっ、はい!」
 ノゾミの顔がぱっと明るくなった。

 素直に感情を表すノゾミに、俺はクスッと笑いを漏らした。
 俺は彼女に親近感を抱いていた。

 ノゾミは、見かけは地味で大人しい女の子だが、この時の俺の目には不思議と可愛く映っている。

 まっすぐに見つめる目。
 儚げな風貌。
 清純な心。

 恥かしがり屋ではあるのに、強い信念を持って一生懸命に全力でぶつかろうとする。
 時々何を考えているのかわからないが、それもまた余興として興味深い。

 俺は徐々に彼女に心を許しつつあるのかもしれない。
 でもまだ、俺はどこかで粋がってカッコいい自分を演じていた。
 自分もノゾミを迎えに行こうとしていたのに、つい俺は気取ってしまう。

「それで、何か用か」

 なんでもっと俺は気の利いた事を言えなかったのだろう。
 例えば「俺も今迎えに行こうとしてた。来てくれて嬉しいよ」とか。
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