先輩、一億円で私と付き合って下さい!
「あっ、あの」
 案の定、ノゾミはまたオドオドしてしまった。

 視界に江藤のニヤニヤした態度がこの時目に入った。
 後で上から目線で説教されそうだ。

「とにかく、ここではアレだから、場所を変えよう」
 俺が先に廊下を歩けば、ノゾミは小走りに近づき俺の横に並んだ。

「天見先輩、昨日姉がどうも失礼しました。姉から何があったか全部聞きました」
「こっちこそごちそうになったし、俺は得したけどな」

「姉も先輩のお蔭で助かったってとても感謝してました」
「いいお姉さんじゃないか」

「はい!」
 ノゾミは満足そうにしっかりと返事した。
 そこで勢いづいて俺に問いかけた。

「それで、あの、今日お時間ありますか」

 もちろんある。
 俺の方がデートに誘うつもりでいたくらいだ。

 先に越されると、自分がしっかりしていないようで悔しい。
 俺はどうしてもメンツにこだわって、自分で視野を狭めて息苦しくなる。

「どうした、なんかあるのか」
 ほらまた──
 自分でもわかっているのに、体はふんぞり返って偉そうだった。

「あの、お忙しいのでしたら、また今度でもいいんです」
 俺はノゾミの息込みに水をさしてしまった。

「だからなんだよ。はっきりと言え」
 脅してどうする。

「あっ、あの、実はセイ君の事なんですけど」
「はっ? セイ?」

「はい、これから一緒に会って貰えませんか」
「弟だったよな」

「いえその、ちょっと訳ありで、私の弟って訳じゃないんです」
「ああ、わかってるよ」
「えっ?」
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