先輩、一億円で私と付き合って下さい!
 俺がリードしたいとプライドを持っている限り、ノゾミに優しくできない事を隠れて自己嫌悪していた。
 それを知られるのもまた恥だと思うから、無理に背筋を伸ばし、偉そうな態度になってしまった。

「お忙しいのにすみません」
 ノゾミが却って恐縮してしまう。

「お前が謝ることじゃないだろう。俺が気安く請け合っただけの事だ。責任は俺にある」
 ここでかっこつけてる場合じゃない。

 それになんだか目のやり場にも困ってしまって、俺は視線を逸らせた。
 トップスはカジュアルにTシャツと大きめのパーカーを羽織ってるだけの何気ない装いなのに、ボトムスはキュロットのショートパンツをはいてすらっとした細い足を惜しげもなく見せていた。

 白い肌だからよけいに足ばかりが目立って、見てはいけないと思えば思うほど、つい制御できないままに視線がそこにいってしまった。

 さりげない中に、ノゾミの魅力を引き立たせるものがあって、俺は男目線になっていたことに戸惑っていた。

 だから普通に「かわいい」っていえばいいものを、喉をゴホンと鳴らすだけですました。

「天見先輩って私服だと大人びてかっこいいですね」
 ノゾミがさらりと褒めるから、俺はドキッとしてしまった。

「馬鹿いうな」

 つい誤魔化してしまい、そして歩き出せばノゾミが慌てて声を掛けてくる。

「先輩、そっちじゃないです。こっちです」
 動揺してるのがバレバレだった。

「この辺には詳しそうだな」
「姉もこの近くのアパートに住んでるんです。だからたまに来ることがあって」
「そっか。この辺便利そうだもんな」

 スタスタと先を歩くノゾミの後ろを、俺は大人しくついていった。
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