ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
「え~いいなぁ~、私も好きな人と2人で線香花火したい~」

「い、いや、好きな人というか…」

「で、で、どういう人なの!?」


答える前に質問を被せられてしまった。
口ごもってしまったが、結局は言うことになるのだろうと早々に諦めて口を開いた。
この子相手には一番賢い選択である。


「…優しい人だよ。静かで表情筋が乏しいけど、声が優しくて、綺麗に笑う人。
……私みたいな子供相手にも、しゃがみ込んで目線を合わせて喋ってくれるような、そんな人」


口に出してから、随分と熱のこもったポエミーな言葉で語ってしまったことに気付いた。
普通に話せばよかったものを、これじゃあまるでめちゃくちゃ重い愛みたいじゃないか。(否定はできないけれど。)

しかも自分で言っておいて、改めて好きという気持ちを自覚してしまって顔に熱が集まる。

反応を聞くのがこわくて、いっそのこと先に教室に入ってしまおうかと思ったとき、となりからぽつりと言葉が聞こえた。


「…素敵だね」


彼女にしてはとても小さく、そして単純な言葉だった。
思わず間抜けな声を出してしまった私を見る彼女の目はさっきより輝いている。


「すっごく素敵!そんな風に言えるくらい好きになれる人って、なかなかいないよ…!」

「そ、うかな…」

「そうだよ!」


未央ちゃんが私の手を掴む。


「応援してる!」


キラキラした目で元気いっぱい笑った彼女は、やっぱり太陽みたいだと思った。
彼女の笑顔には、見ている人まで笑顔にさせてしまうある種魔法のような力があると思う。


誘拐犯さんと同じだなと思うと、自然と胸のあたりがあたたかくなった。

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