ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
「…飲む?」

「いや私未成年」

「舐めるくらいならいいと思うよ」

缶を差し出されてしまった。あまり乗り気ではなかったけれど誘拐犯さんがあまりにも幼く首を傾げるものだから断ることもできず、頷いてしまった。
缶を受け取って、ぺろりと一口。舌に広がった味は案の定美味しいと言えるものではなかった。


「…苦い。大人って、こんな苦いのが美味しいの?」

「残念なことに」

「可笑しいね」


君にはまだ早かったね、と自分から勧めたくせにクスクスと笑っていた誘拐犯さんは、それからまた少し飲み進めると眠くなってしまったらしく、いつの間にか私の肩にもたれていた。眉間に皺を寄せて目をしょぼしょぼと瞬かせる仕草は本当に幼い子の様で。


「…どーしたんですか」

「どうもしてない」

「子供みたいだね」

「酔ってるからね」


私は残っていたチーズの一切れを摘まんで口に入れた。うん、美味しい。


「…寝よっか」


眠そうにしている誘拐犯さんをみていると何だかこっちまで眠くなってしまった。
背中をソファーのもたれさせ、私も誘拐犯さんの方に寄りかかる。

少し遅めのお昼寝である。

アルコールを含んで高くなった誘拐犯さんの体温は服越しでも伝わるくらいにあたたかかった。
< 105 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop