ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
誘拐犯さんと過ごしていく内に、あの突然くる酷く苦しい感情のような発作は来なくなっていた。
もしかしたら私は本当は、ひとりがこわかったのかと思う。
こうして、少しずつ、少しずつ時が過ぎて2週間。
日曜日はお兄さんもお休みなので、2人同じくらいに起床する。
今まですっかり忘れていたスマホの存在に気付いて、何となく触る。
心配してくれるような関係の人はいないので対して期待はしていなかったけれど、案の定、クラスメイトからの連絡は無かった。
その代わりと言うべきか、当たり前のことだけれど、学校からの連絡が20件以上。
「…誘拐犯さん、これ、どうしよう」
「何…あー」
新聞を読んでいた誘拐犯さんにスマホの画面を見せれば、途端に眉根を寄せた。
私がさも当然のことのように学校に行かないものだから、存在を忘れていたのだろう。
深く長い溜息を吐いた誘拐犯さんは、「面倒なことになった…」と、言葉そのまま、本当に面倒臭そうな顔をしている。
その眉間に寄った皺を指で摘まんでやりたい衝動を堪えた。
「これ…取り敢えず連絡した方がいいかな?」
「だろうね。俺知らないよ」
途端に無責任に放り投げた誘拐犯さんを横目で睨みながら、恐る恐る学校へ電話を掛ける。
3コール目で、聞き慣れた事務員さんの声がした。
名前を告げた途端に大声で担任を呼ばれ、その後は案の定、長―い説教。
そして、「取り敢えず明日は必ず来なさい!分かった!?」という約束を取り付けられ、説教は終了した。