ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
クリーム色のアパートにつけば、そこは相変わらず静かで温かかった。
着いた頃にはすっかり暗くて、私は何を喋るでもなく、小さな三角形になる。

「何、いじけてんの。…ほら、ココア飲んでもう寝なさい」


呆れたように言った誘拐犯さんが差し出してくれたのは、温かいココアの入ったマグカップとお母さんのような口調に小さく笑った。
この部屋にココアなんてあったっけな。誘拐犯さんのことだから、きっと私の為に買ってくれたんだろうな。


「ココア、もしかして私のために買ってくれたの?」

「断じて違うけど、そういうことにしてあげてもいいよ」


ココアよりもほろ苦いコーヒーを啜りながら、誘拐犯さんはさらりとした顔で言う。コーヒーなんて飲んだら眠れなくなってしまうのに。



「…誘拐犯さん。今日、一緒に寝てもいい?」

「いいよ」


ココアを飲みながら、ぽつりと出た言葉に私は驚いた。
けれど帰ってきた返事はあまりに簡単で、思わず誘拐犯さんの方を見る。本当にいいの?くいっと首を傾げて目だけで訴える。


「いいよ。おいで」

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