ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
誘拐犯さんはベットの上で、隣をぽんぽんと叩く。
飲みかけのホットココアを置いて、私はもぞもぞと隣に入った。
誘拐犯さんの背中に、額をくっつける。
布団よりも匂いがはっきりして、すぐ近くにいるって分かった。
一定のリズムで動く心臓と音を重ねたくて、ぴったりくっついてあの日のように呼吸を真似する。
そうしているとなんだかすごく泣けてきて、誘拐犯さんのシャツに染みをつくった。
誰かとひとつの布団で身を寄せ合うことなどほとんどなかった。
思えば両親が死んでから、初めて泣いたかもしれなかった。
「何、泣いてんの」
そう呟いた誘拐犯さんがもぞりと動いて、私の方に向き直る。
「…泣いてないよ」
「泣いてる」
「泣いてない、」
「隠せてないよ、下手くそ」
強がりを言っても涙は勝手に流れて、繊細な指先がそっと掬ってくれる。誘拐犯さんのシャツを握って、首筋に頭を押し付けて擦り寄った。
髪の間に指を差し込んで優しく撫でてくれる指先に、余計に泣けてしまってもう収拾がつかない。
追い縋るようなみっともない私の手を、誘拐犯さんはそっと包んでくれる。
しがみつくように握ったシャツに残った皺を、どうか消さないでほしいと願った。