ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
誘拐犯さんをじっと見ていたのがばれてしまって、新聞に戻っていた目線がまた私を見た。
いつもと変わらないゆったりとした動作でコーヒーを飲んで、マグカップを置く。そうしてひとつ瞬きをしてから、ぼさぼさの私の髪を更にぼさぼさにするみたいに撫でた。


「昨日、君が幸せをこわくなくなるまで傍にいるって言ったろ。だから、今日は君がしたいことをしようと思って」


本当は休みの日がよかったけど…と言い訳交じりに。

私は一瞬きょとんとしてしまった。
その言葉ははっきりと覚えているけれど、それはきっと私を説得するための言葉だと思っていたから。

平日に、誘拐犯さんが傍にいる。
その事実が嬉しくて、整理の付かない寝ぼけた頭を傾げて聞いた。


「…それ本当?」

「嘘ついて得する?」

「仕事休めるとか」

「別に仕事は嫌じゃないよ。というか、君は俺をどんな大人だと思ってるの」


私の言葉に誘拐犯さんが困ったように眉を下げて言った。

困った顔をする誘拐犯さんは最近よく見る。うーん、それは私が原因なのだろうか。どうかんがえても原因が自分しかいないことに嬉しいような複雑な気持ちになった。

どちらにせよ、誘拐犯さんが仕事を好き勝手休むような人とは思っていないけどその表情が何だかんだで嬉しい。




< 36 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop