ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
地面に落ちる光の上だけを歩こうと、つま先立ちでよろよろと歩く。
子供のころによくやった、横断歩道の白線の上だけを歩いたときのように両手を広げて。
それを少し後ろで静かに見ていた誘拐犯さんが微かに笑った気配がして振り向いた。

「何よぅ、子供みたいって思った?」

「思った」

「ふん、だって私、まだ子供だもーん。17歳だもーん」


舌を出して、それこそ子供みたいに言い返せばまた誘拐犯さんが笑った。
黒い髪が揺れて光に透けて綺麗だなあと思うけど、それだと何だか女の人を表現しているようで違うなと思った。
誘拐犯さんは、綺麗で、それでいてきちんとした男の人。

暫く歩けば緑のトンネルも抜け、視界がぱっと開いた。
遮られていた光が目に余るほど眩しくて、暫く2人立ち止まって目を細める。


「眩しいね…ほんと、今日はいい天気」

「あんまりいい天気過ぎるのも苦手かな、俺は。雨の日は好きだよ。」


心底眩しそうに手を翳した誘拐犯さんを見ながら、確かに雨似合いそうだなぁと思う。
傘の色は青かな。いや、意外と緑とかも似合いそうだなぁ。そんなことを考えていた。


「…あ、じゃあさ。今度は雨の日にお散歩したい」

「いいよ。でも、子供みたいに傘ささずに走り回るとかはやめてね」


はーい、と口先だけの返事をして、今度は私より前を歩く誘拐犯さんに追いつこうと少しだけ歩幅を広げる。
それに気づいた誘拐犯さんはそっと歩幅を狭くして、私に合わせて隣を歩いた。

< 39 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop