ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
誘拐犯さんが否定をしなかったので、調子に乗って腕を絡め猫撫で声で言ってみれば、案の定デコピンを食らった。
額を押さえて涙目になっていれば、いつの間にか会計が済んだようで。

終始ニコニコ笑っていたお婆さんに手を振って、駄菓子屋を出た。
駄菓子の入った袋を揺らしながら隣を歩く。
こうしていると、まるで本当に家族と歩いているような感覚に陥ってしまいそうになる。
何だかよく分からない感傷に浸っていれば、透明な声がそっと私を引っ張った。


「違う道通って行こうか」

「うん」


どうやら緑のトンネルとは違うところを通るようで、私は黙って隣をついて歩いた。誘拐犯さんが、自分が、不安になってしまわないように、近すぎるくらいの距離で。

暫くの沈黙は、埋めるまでもなく2人の時間で埋まってゆく。


「ねぇ、私、いつまで一緒にいられる?」


自分の影を見つめて歩きながら言った。



「…君が、幸せをこわくないと思うまで。言ったでしょ」

「あは、そうだった」

そうだ、それが約束だった。
忘れる筈がないのに確かめたくて、とても甘くて優しい、けれどきっといつかの日に終わる約束を繰り返す。

私は誤魔化すように笑った。



< 41 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop