ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
「…ねぇ、また散歩できる?」


何気なく聞いたつもりだった。
昨日あれだけ泣いたというのに恐怖というのはしつこくやって来るもので、隣を歩く誘拐犯さんに、笑顔を作って何気ない口ぶりで尋ねる。


「できるよ。また2人でしよう」

誘拐犯さんは私を見ずに言った。
理由とか事情とか、そういうものは置いといて、この人はまず私が欲しい言葉をくれる。
できるか、できないか。余計な言葉は入れない、それだけが嬉しい。


「…しょうがないから、手繋いであげるよ」


私が俯いて歩いていれば、目の前に手が差し出された。
陽に光っているその手は、本当に、私を救うために差し出されたみたいに見える。
勘違いでも、今はそれでいいと思った。



「…誘拐犯さんって、実はツンデレなの?」

「重要あんの、それ」


2人でくすりと笑い合って、2人同時に手を握った。

< 42 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop