ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
アパートに着いてから、私たちは昼寝をすることにした。
薄手のブランケットで充分な暖かさで、うとうとと心地の良いまどろみ。
机を退けて、絨毯の上で2人で寝っ転がった。


「ねぇ、何読んでるの?」

「本」

「面白い?」

「面白いよ」

「ふーん」

読書にはあまり興味がないけれど、ただ声が聞きたくて話しかけた。


いつまで続くだろうか、と思う。
こうして2人でうとうとできる日々が、いつまで続くだろうか。
この幸福は、いつか指の隙間からするりとすり抜けてしまう。そんな恐怖はいつも私について回る。

寝返りを打つふりをして、私は誘拐犯さんの背中にぴたりと寄り添った。

その心拍はいつしか私にとっての安眠剤になっていた。


「…暑いよ。君、案外子供体温だよね」

「ごめん。でも、くっついてたい。だめ?」

「…駄目とは言ってないよ」




ありがとう。小さくそう呟いたのを聞こえないふりをして本を読む誘拐犯さんに感謝して、私はつかの間の幸福に縋るように手の力を強くした。


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