ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
(6月中旬 日曜日)
ちょうど梅雨と呼ばれる時期。
その日は朝からぽつりぽつりと雨が降っていた。
低気圧が苦手な私は日曜日にも関わらず早く起きることが出来ず、目覚めた時には隣は布団の抜け殻と化していた。
窓に当たる水滴の音に耳を澄ませて、ソファに座ってコーヒーを飲む誘拐犯さんを見る。
「今日、雨?」
「うん、雨だね」
立ち昇るコーヒーの湯気につられて私も上を見ながら、以前に聞いた誘拐犯さんの言葉を思い出していた。
「誘拐犯さん、雨の日好きなんでしょ?じゃあ、お散歩行こう。約束したから」
私はそう言い放って、そそくさと支度を始めた。
相手が勝手に行動すれば、考える気も失せるの法則。
案の定誘拐犯さんは呆気に取られたように私を見て、それから「ああ、そういえばそんな約束もしたな」と思い出したようだった。
「もー、ちゃんと覚えててよ!」
「日曜日なのに朝起きなかった人に言われたくない」
「う…」
誘拐犯さんの反論に論破されつつ、少しだけ短くなった髪を揺らして身支度を終えた。
雨が降ったからといって騒ぐような歳ではないけれど、久しぶりの誰かと2人で過ごす雨の日というのは中々ワクワクするものである。
私は持ってきていたパステルカラーの傘をくるりとまわす。
「…君も、雨の日好きなの?」
その様子を見ていた誘拐犯さんが不思議そうに尋ねた。
「嫌いじゃないけど、晴れた日の方が好き」
私の答えに、誘拐犯さんは更に首を捻った。
私がこんなに機嫌がいいのは、雨が降ったからではなく、誘拐犯さんが隣にいるから。
そんなふうに思っていても、言えるはずがない。少女漫画なんかでよくあるすれ違う男女に人生で初めて共感しながら、言い訳を考える。
「…紫陽花。紫陽花が、見れるかもしれないから」
咄嗟の言い訳に誘拐犯さんは納得したようで、私はホッと胸を撫で下ろした。
ちょうど梅雨と呼ばれる時期。
その日は朝からぽつりぽつりと雨が降っていた。
低気圧が苦手な私は日曜日にも関わらず早く起きることが出来ず、目覚めた時には隣は布団の抜け殻と化していた。
窓に当たる水滴の音に耳を澄ませて、ソファに座ってコーヒーを飲む誘拐犯さんを見る。
「今日、雨?」
「うん、雨だね」
立ち昇るコーヒーの湯気につられて私も上を見ながら、以前に聞いた誘拐犯さんの言葉を思い出していた。
「誘拐犯さん、雨の日好きなんでしょ?じゃあ、お散歩行こう。約束したから」
私はそう言い放って、そそくさと支度を始めた。
相手が勝手に行動すれば、考える気も失せるの法則。
案の定誘拐犯さんは呆気に取られたように私を見て、それから「ああ、そういえばそんな約束もしたな」と思い出したようだった。
「もー、ちゃんと覚えててよ!」
「日曜日なのに朝起きなかった人に言われたくない」
「う…」
誘拐犯さんの反論に論破されつつ、少しだけ短くなった髪を揺らして身支度を終えた。
雨が降ったからといって騒ぐような歳ではないけれど、久しぶりの誰かと2人で過ごす雨の日というのは中々ワクワクするものである。
私は持ってきていたパステルカラーの傘をくるりとまわす。
「…君も、雨の日好きなの?」
その様子を見ていた誘拐犯さんが不思議そうに尋ねた。
「嫌いじゃないけど、晴れた日の方が好き」
私の答えに、誘拐犯さんは更に首を捻った。
私がこんなに機嫌がいいのは、雨が降ったからではなく、誘拐犯さんが隣にいるから。
そんなふうに思っていても、言えるはずがない。少女漫画なんかでよくあるすれ違う男女に人生で初めて共感しながら、言い訳を考える。
「…紫陽花。紫陽花が、見れるかもしれないから」
咄嗟の言い訳に誘拐犯さんは納得したようで、私はホッと胸を撫で下ろした。