ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
「紫陽花なら、近くに咲いてるとこあるよ。会社行く途中の道なんだけど、いい?」

「うん!」

どうやら誘拐犯さんは紫陽花の咲いている場所を知っているようで、私が嫌がる理由など有る筈もなく決定した。

そうして、私たちは電車に乗り込んだ。誘拐犯さんの会社近くに行くには、車でもいいけれど電車の方が早く着くのだ。
通勤ラッシュは過ぎ空いている車内で、私はふざけて誘拐犯さんの肩口に頭を預ける。


「…あれ、嫌じゃないの?」

「嫌じゃないけど」

「……何それ」

「そのままの意味だよ」


困ったような顔を期待したのに誘拐犯さんはまんざらでもないような表情で、さらには頭まで撫でられてしまって少し複雑な心境になってしまった。


そんなこんなで、電車に揺られて約20分。
誘拐犯さんの会社の最寄り駅に降りて、傘をさして辺りを散策する。


紫陽花が咲いているというその場所まで然程距離はなかった。



暫く歩けば、やがて目の前には紫陽花の園。
青、紫、ピンクのコントラストが水滴に反射して、輪郭を濃くしている。あまりにも幻想的だと、思った。
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