ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
食べ終わって、誘拐犯さんはソファに寝転んだ。
薄い毛布を引っ張り出して、肩までかぶって私に言う。


「ベットで寝な。俺はここでいいから」


図々しく泊めてもらおうと思ってはいたものの、流石に申し訳なくなって頭を振った。居候、というか迷惑しかかけていない初対面の女子高生の分際で大人しくベットを借りることなどできる筈もなかった。

しかし、必死の抵抗も虚しく、結局は誘拐犯さんの寝たふりで私は負けてしまった。いくら呼びかけても反応しない。挙句の果てには本当に寝たのではないだろうかと思い、起こすことができなかったのだ。
流石の私にも、見ず知らずの人と一緒のベットで寝る勇気はない。

渋々布団とマットレスの間に身を挟んで、瞼を閉じる。


薄暗い瞼の裏。

知らない匂いにどうにも落ち着けず、けれど可笑しなことに、あの部屋でひとりで眠る時より穏やかな夜。
誰かが同じ空間にいるというのはこういうことだったか、と久しぶりに思い出したような感覚だった。


規則正しく、吸って、吐いてを繰り返す誘拐犯さんの息遣いに合わせて息をしていた。

自分の呼吸を正すように繰り返していれば、いつかぐっすり眠れてしまう気がした。




案の定、睡魔はすぐにやってきた。
心地のいいまどろみの中抵抗する理由などある筈もなく、私は当然のようにゆっくりと意識を手放した。





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