ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
「でもなんだか、最近ちょっと、雰囲気変わったなぁって。だから、話しかけるチャンスだって思って」

「…変わった?」

「うん、変わったよ。なんか、柔らかくなった」

そう言った後、彼女は「いや、別に前が硬かったとか、そういうことじゃなくてね…!」と謎のフォローを入れてくれるが、そんなことは気にならなかった。



変わった、らしい。

その言葉は予想外にも抵抗なく胸に落ちてきた。
そうか、と私はやけに納得する。ああして穏やかな日々を過ごしていると、人は変わるのか、と。

実際、今目の前の彼女に対して話してみたいという思いを抱いているのだから、本当に変わったのだろう。
あの人のお人好しが移ったのだとしたら、それは喜ぶべきなのか。


「…あ、先生来ちゃう。ごめん、また話しかけるね!」


私がそんなことを考えている間に時計をちらりと見た彼女は、ひらひらと手を振りながら窓際から少し離れた席へ戻っていった。
チャイムが鳴って、いつも通り、いや、少しだけ違う一日がスタートする。むず痒い慣れない感覚に、どうにも落ち着けなかった。

その後、終業式が終わってから彼女は本当に私に声をかけてきた。
彼女は高梨未央というらしい。吹奏楽部に所属しているらしく、この後も部活だと言って音楽室へ走っていった。

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