ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
家に着いてからも、彼女に押し切られる形で交換したラインをまじまじと見つめていた。
そんな私を不審に思ったのか、偶々休みで家にいた誘拐犯さんが缶ビールを片手に私の横に腰かけて、スマホを覗き込んだ。
私は咄嗟に画面を隠してしまった。


「…何。なんで隠すの」


誘拐犯さんが訝し気に眉根を寄せる。
隠した理由が自分でもよく分からなくて、言葉に詰まってしまった。
いつも器用に使い分けていた言葉が、この人と暮らしだして少しばかり柔らかくなった気がする。得意だったはずの嘘が出てこなくて、不自然に黙り込んでしまった。

「…ちょっと、びっくりしちゃって。それで、咄嗟に隠しちゃった!」

「……ふーん」

漸く言葉を搾り出せば、それ以降は特に興味もなさげな返事が返ってきたのでホッと胸を撫で下ろす。


「ごめんごめん、別に、やましいことがあるとかそういうんじゃないから心配しないで」

「うん」


すぐ隣から返る返事は、いつも通り。
私は尚も、隠してしまった理由を考えていた。

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