ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
(7月中旬 日曜日)

夏休みに入って最初の日曜日。その日は朝から快晴。
夜には、夏にしては珍しいカラリと乾いた空気に夜空がよく映えていた。

この間できたばかりの友達は、ラインを頻繁に送ってきてくれるので交流は続いていた。
この夜も案の定、『今日は月が綺麗だよ!見てる?』という彼女からの写真付きのメッセ―ジが送られてきて、私はふと思いついた。


「ねぇ誘拐犯さん、月!月、見ようよ。きっと星も綺麗だよ」


七夕は過ぎていたけれど、綺麗な星空は見上げればいつでもあるのだ。


「…うん、いいかもね」


私の提案に珍しく乗り気になったようで、誘拐犯さんはブランケットを持って立ち上がった。
携帯と鍵をポケットに入れる。
私も、普段なら持っていく必要のない携帯をそっとポケットにしまった。


「どこで見るの?」

「どこでもいいけど、多分この辺だと、近くの公園が一番見えると思うよ」

誘拐犯さんが言うのだから、きっとそこが絶景ポイントなのだろう。
何だかんだ言って一番綺麗な場所を知っているのはいつも誘拐犯さんで、私が検討する必要もない。

「…じゃあ、行こっか」

「うん!」


誘拐犯さんがそう言ったので、私は大人しくついていく。

玄関を出れば外はたちまち真っ暗で、躓かないようにゆっくり短い階段を降りた。
道路に出れば、私は誘拐犯さんの隣をそっと歩く。

歩くときは隣を歩くことがルールになっていて、通りが細くない限りは隣をくっついて歩いた。

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