ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
静かな場所を好む私が言うのは何だか都合がいいかもしれないが、東京というのは、本当に便利な街だと思う。少し行けば大きなデパートがあり、どこにいても買えないものはないのだから。

私たちが目指すひまわり畑というのもそう遠くはないらしく、車で出かけることになった。
車の助手席に乗って、時々ちらりと運転席を窺う。


「…何、さっきからチラチラ見てるけど」

「何でもないでーす」

「…あんま見られると気になるんだけど」

「事故しないでね」


私の視線が気になったのか、どうにも落ち着かない様子の誘拐犯さんにクスクスと肩を揺らす。誘拐犯さんは拗ねた子供のような表情をしたから、カメラを取り出してカメラに納めてしまおうかとも思ったけれど、本当に事故になってしまうと困るのでやめておいた。

車は進み、暫くすると田舎の景色のようにひらけた道路に出た。
途端に広がった景色に思わず声を上げる。生まれた時から東京で育った私にはあまりにも縁遠い緑の世界にワクワクしていると、運転席で誘拐犯さんが柔らかく笑う気配がした。


「そろそろ着くからね」

「はーい。楽しみだなぁ」

「…そうだね」


少しの間。気になるけれど聞いてはいけない。それを私は知っていて、それでも聞きたくて、知りたくて、だけど弱い私は何も言えずに。
頷くことも億劫になってしまって黙っていると、目的地に着いたようだった。

さっきまでの空気を誤魔化して笑顔を作って車を降りる。
何度も来たことがあるような足取りで進む誘拐犯さんの隣を早足でついて歩いて、暫くすると目の前の景色に言葉を失った。

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